FX証拠金取引が持つクレジットリスク(2) 誘発される他のリスク
「終わり」といったん書いておきながら、風呂に入って思いついたことを付け足します。
為替が大きく動いてFX証拠金取引の顧客が大損を喰らい、なおかつそれを支払わなければFX業者が持っている潜在的なクレジットリスクが顕在化します。
それを防ぐために普通は以下のような仕組みが用意されています。
- 十分な証拠金(=健全なレバレッジ)
- 証拠金が不足しそうな場合、強制ロスカットで手仕舞いさせる
仮に市場が大きく動き、顧客が追加証拠金(追証)を差し入れることができなかった場合、FX業者が顧客の持ち高を強制的に解消してしまうわけです。
しかしこの仕組みも、よく考えると別のリスクを顕在化させることになります。
まず損したほうの顧客のポジションを解消するために、一度自分がそれを買って(ビッドで受けて)、すぐに市場でカバーしなければなりません。というのもそれまで社内でマッチングさせていたポジションが傾くことになりるからです。
先ほどの例で言えばBさんのドル買い(業者のドル売り)ポジションが消滅してしまうので、FX業者の手元には「Bさんの損失」と「Aさんのドル売り(業者のドル買い)100万ドル」が裸になって残されるわけです。で、「Bさんが持っていた分のドル買いを一度自分が受けて(Bさんのドル売り・業者のドル買い)、市場に流す(業者のドル売り)必要がある」と。
ポジション 証拠金 損益
Aさん -100万ドル 100万円 +1000万円
消滅→ +100万ドル 100万円 -1000万円
________________________________________________________
顧客合計 -100万ドル 100万円 +1000万円
FX 業者 +100万ドル 100万円 -1000万円
↑ ↑ ↑
↑ この損は肩代わりする(泣)
↑
市場で100万ドル売ってカバーしなければならない
これはツライですよお。
普段であればなんてことないカバー取引なんですが、一瞬にして10円も動くような市場で売らなければならないのだとしたらチビリます。ヘッジに失敗しただけで会社が飛んでしまいそうじゃないですか。
うまくできたシステムであれば、ヘッジのタイムラグやスリッページを最小化し、損失を顧客に転嫁するようになっているはずです。しかしそんな最先端の技術も顧客がバックレたら意味なし(笑)。
難しい言葉で言うと、「クレジットイベントにトリガーされて、マーケットリスクが顕在化する」とでもなるんですかね。なかったはずのデルタがいきなり出現して、ヘッジを強制されるわけです。
こんな状況に陥っても、損をした顧客から半分でも回収すればまだ倒産は免れるという状況だったとしましょうか。しかしそれがいつ回収できるかはわかりません。裁判しようとしても債務者は遅延工作に出るでしょうから、ぐずぐずしているうちに会社が倒産してしまいます。
こうなると金融機関はキツイです。信用が低いので高い金利でカネを借りなきゃならなくなるかもしれません。手数料やスワップレートを優遇し、高レバレッジを可能にして顧客を集めなければならないかもしれません。いずれも利ざやを圧迫し、顧客の質を落とし、リスクを高めてしまう行動です。
こうして考えると金融機関の破綻のほとんどは、「貸すべきではない相手に過大に貸してしまった」ことが原因になるのではないかと思います。同業他社との競争がきつくて死に物狂いで顧客を集めようとするのですが、その顧客の信用があまり良くないため結果的に収益の量と質を落としてしまうのです。サブプライムなんかもそのパターンですよね。
97-98年の金融危機でもそうでしたが、市場の大きな動きでリスクが顕在化し、金融機関の破綻が増えます。しかし実はその前に、以下のような兆候が現れているのです。プロはこれらの兆候を慎重に見極め、危ない取引相手を巧みに避けて通ります。
- 業界内の競争の激化
- 過大なサービス競争・価格競争
- 今まで避けられていた顧客層の開拓
- 逆選択。収益の量と質(資産内容)の劣化
- 市場の急変。大きな損失。
- 資金調達の不安。
- 勝ち続けるしかない大勝負(自己ポジによる投機など)
- そしていつしか、破綻
ちなみに逆選択とは、「悪貨が良貨を駆逐する」とでも言いましょうか、「市場での競争を通じて本来は良質のものが生き残る(選択される)はずが、逆に良質でないものだけが市場に出回るような状態」のことです。
保険で言えば低リスク者の脱退、銀行で言えば優良借り手の返済などにより、顧客の質が全体としてどんどん劣化してゆく状況を指します。http://www-h.yamagata-u.ac.jp/~tate/yougokaisetu.htm
では、金融機関がこういった悪循環を避ける方法はないのか?
バフェットが言うところでは「同業他社の逆をやれ」という戦略があるそうです。彼の場合は保険業ですが、「同業他社が慎重になっているとき自分はイケイケで、同業他社がイケイケのときは自分は慎重に。そうすればサービス競争・価格競争に巻き込まれて収益を劣化させることもなく、長期的には勝利を収めるだろう」と言っていました。
これは「顧客を選べ!資産を劣化させるな!」ということなんでしょう。
逆張り投資に通じるものがありますね。
最近のコメント