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2009年9月23日 (水)

基軸通貨の本質(1)

うら若き源静香は苦悩していた。

ジャイアンが発行する通貨「ジャイ」をこれ以上持つべきか、についてである。

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なるほど、ジャイアンは無敵だ。

しかしだからといってジャイアンが無制限にジャイを発行し、そのカネで贅沢をすることが許されるのであろうか?

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通貨ジャイはただの木の葉である。

しかしその価値をジャイアンが保証しているため、その信用はジャイアンの信用やメンツと同義であった。

オモチャの交換は、すべて「ジャイ」を単位に交換された。ジャイがあれば広場の使用権を買うこともできた。争いや恨みも、最終的にはジャイの交換でたいがい解決した。

究極は「義務の免除」である。一定額のジャイを支払えば、ジャイアンリサイタルを聞く「町民の義務」を免れることができた。

だからみんな、争ってジャイを求めた。

ある者は快楽を追い求めるために、
ある者は苦痛から逃れるために。

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通貨ジャイはジャイアンの権威であり、ジャイアンそのものであった。その価値を貶める者は、ジャイアンの覇権を否定することと同義であった。

布施院(フセイン)くんは「ジャイを使うのをやめる」と言ったため、いいがかりをつけられてタコ殴りにされた。

「ジャイ」の偽造などもってのほかで、「ただの木の葉じゃねえか」と偽造していたジョン君は、ジャイ決済を止められて交換に参加できなくなった。この町内では最上級の経済制裁である。

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しかし、それらがたとえ理不尽で自分勝手な暴力であっても、シズカのような人間にとってはありがたい話であった。

なぜならこの町の子供はジャイアンが打ち立てた秩序によって暮らしているので、ジャイを使って経済活動をしている限りジャイアンがその価値を守ってくれるからである。

シズカは誰にも負けない技術と優しい心を持っていた。誰かに編み物をしてあげたり、料理をご馳走したり、オモチャをあげて、それで満足であった。

しかし中には、シズカを利用するだけ利用して何の感謝もしない人間がいる。

そんなときにはサービスと引き換えにジャイをもらうことにすれば、それを払わない相手はお断りすることができた。またジャイを蓄えて別の場所で別の人から「お返し」をしてもらうことができた。

シズカがジャイを使うとき、受け取りを拒否すればジャイアンがすっ飛んできてさんざんな目に会わせる。

他人に騙されたり、脅されたりして泣き寝入りしたくなければ、ジャイを通じた交換が最も安全・確実なのだ。

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シズカも正直、ジャイアンは恐い。

しかしそれは他のみんなにとっても同じだ。

だからジャイを交換通貨として使うことは、ジャイアンを除いたみんなにとってきわめて「平等」なシステムなのだ。

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ジャイアンはジャイの価値を守るために暴力を振るっているが、それは結果的に過去に生み出した価値を守ることになっている。

過去に何らかの「貢献」をした者が別の場所で、別の者から見返りを受けるとき、そこにジャイアンがいなくてもその暴力によって守られていることを示していた。

本人は気付いていないかもしれないが、彼は全知全能を傾けて「あらゆる交換の場において信用補完をして」くれているのだ。

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しかしこの町内には、それが面白くない人々もいるらしい。

たとえばスネ夫は、
「ジャイ以外の決済通貨が必要だ!」
と息巻いていた。

2008年に町内が金融危機に陥り、みんなが決済用のジャイを求めて血眼になっていたとき、ジャイアンはみんなと「ジャイスワップ協定」を結んで資金不足にならないように配慮した。

信用が足りない人にもそれを補完してあげていた最中にスネ夫がそんなことを言い出すので、シズカは驚いた。

  何と恩知らずな!

ジャイアンがヘソを曲げて「じゃあ、おまえとはスワップ協定を結ばない」と言い放ったら、スネ夫のところだけ銀行がバタバタ倒産していたのかもしれないのだ。

ジャイアンはああ見えてバカではないから、スネ夫を締め上げる代償として金融危機を深刻化させることはなかった。それにしてもスネ夫は政治的なアピールのために、ずいぶん危ない橋を渡ろうとしたものである。

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2008年の教訓は
「少なくも今のところ、ジャイに代わる基軸通貨はない」
ということであった。

ジャイアンも傷ついたが、他の人はそれ以上にボロボロになったので、結果的にジャイアンの強さを証明しただけの年であったとシズカは考えている。

しかしそれがわからない人々は、
「ジャイは基軸通貨としてふさわしくない!」
という宣伝を真に受けているようだ。

たとえばのび太は、スネ夫たちと一緒に共同体を作り、
ジャイに代わる基軸通貨を作ろうとしているらしい。

   何と愚かな!

のび太の発行する通貨ノビーもそれなりに信用があるのに、それを離脱して信用の低い通貨と一緒になろうとする意味がシズカにはわからない。

基軸通貨の争いは、すなわち覇権争いである。

ジャイを捨てて自分を裏切ったのび太をジャイアンが守ると思えない。のび太がスネ夫に騙されてカネを巻き上げられても、それはスネ夫との間で解決するしかない。

武力を持たず悪知恵もないのび太がそれでやっていけるのか?のび太は稼ぐ以上に食い物にされ、反撃できないまま沈んで行くだろう。

「心底ドMなのね、のび太君は」

と、シズカは思うしかない。

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だからシズカは、このままジャイを使い続けたいと思っている。

それが暴力を持たない人間の処世術であり、町内の安定のためと思うからだ。

ジャイアンの覇権が永続的ではないとしても、それが誰の目にも明らかになるまでは「反ジャイアン派」の宣伝に乗らないようにしよう。

そもそも彼らだって、「ジャイ」を外貨準備として積み上げているのだ

ジャイを貯め込んで信用を補完しなければならない通貨が、代わりの基軸通貨になるはずかない。

彼らがジャイを準備しなくても他の人々がその通貨を受け取るようであれば、もしかしたら可能性があるかもしれないが。

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それにしても、と、シズカは溜息をついた。

最近のジャイアンは浪費癖がついてしまったように思える。

基軸通貨が「成長通貨」をばら撒かなければならないとしても、あまりにひどいジャイの濫発はその信用をなくすことにつながるであろう。

それはシズカにとって「過去に稼いだ資産が目減りする」ことであり、ジャイアンにとっては「覇権の弱体化」になる。

なんとか共倒れを食い止められないか、とシズカは悩むのであった。

(続く)

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