米中冷戦における日本(2):地政学的に恵まれた日本
最近の情勢を考える前には、歴史を踏まえる必要があります。
さらにその前に、歴史を決定付けることになった地理的条件があると考えます。
そんなわけでまず、東アジアの地政学についておさらいします。
[大前提1] 世界の覇権は海上覇権
大航海時代以降、世界の覇権国家は海の覇権国家でした。
それまでは陸上交通の要衝を押さえた国が有利でしたが、航海技術の発達とともに「海の道」が開拓されました。
エネルギーを消費する陸上輸送に比べ、船を使った海上輸送はコストがはるかに安いです。
さらに地続きでない国とも交易をすることが可能で、大陸間の「裁定取引」が可能でした。
貿易によって利益を得るためには安全な海上交通が必要であり、海の覇権国家は巨額の利益を得て世界の覇権国家となりました。
現在は空の覇権を取った国が軍事的に最強だと思いますが、それも海上交通の安全を守るために必要なのです。そしてどのみち米国が航空・宇宙・海洋において最強の覇権国家であることに変わりありません。
[大前提2] 島国有利の法則
覇権を握るためには他国が邪魔をしにくい海へのアクセスが必要です。
理想的には島国であったほうが良いでしょう。
というのも陸の戦いは戦いを終わらせる占領のため人数が必要で、攻めるほうも守るほうもコストが高く、多くの民間人が巻き添えになるからです。
その点、島国は楽です。
島国の戦争は、空と海で軍隊が負けたら終わり
ロシアのように千万単位の死者を出す前に、負けたことがはっきりわかります。相手が許してくれるかどうかわかりませんが、さっさと敗北を認めることで再起を図ることができるのです。
また陸上戦力に力を割く必要がそれほどありませんから、最も人数が多く、ともすれば国内の圧政に使われることもある陸軍がダントツの力を持ちにくくなります。結果として文民統制しやすい国になります。
そもそも相手の装備と国力を見れば、勝つか負けるか軍関係者にはだいたいわかります。政治家や国民に強く求められたら戦うしかないですが、少なくとも軍隊が負ける戦いを好んで選ぶことはありません。
そして海と空の戦いは装備と戦略で決着します。
脳ミソ筋肉になりがちな大陸国家に対し、海洋国家はロジカルでなくてはならず科学技術が発達しやすい環境にあるのです。
さらに海洋国家(都市)は貿易や投資の必要性から金融が発達します。ロンドン・ニューヨークは言うまでもなく、鎖国時代の日本でさえ先物取引を生み出しました。今でもメジャー金融センターは海洋国家あるいは海上交易都市です。その結果、情報産業が発達して戦費調達がしやすくなるというメリットがあります。
知的な産業や戦争において、海洋国家は有利な位置にいると言えるでしょう。
ちなみにアメリカは海洋国家です。カナダやメキシコと国境を接していますが、ともに大きな脅威ではないため大陸の有利さと島国の有利さを持ち合わせています。
[大前提3] 侵略しにくい他文明との距離・稠密な人口
仮に日本がもっとアジア大陸から離れていたとしたら、中華文明から様々なものを学ぶことはできなかったでしょう。南洋の島々のように、ある日突然優れた西洋文明と対決しなくてはならなかったかもしれません。
逆に朝鮮半島のように陸続きだったとしたら、中華文明や東方正教会文明(ロシア文明)に影響されまくったことでしょう。中華文明が苦しめられた北方異民族から何度も侵入されたに違いありません。
平和なときは大陸から文明を吸収し、そうでなければ列島に引きこもれる都合の良い距離にありました。それによって独自の文明が根底から破壊されることなく続いてきたと言えます。同じ条件にある国としてはイギリスが挙げられます。
さらに幸運なことに、大航海時代にブイブイ言わせていた欧州諸国とは最も遠い場所にありました。オーストラリアやニュージーランドよりも遠く地球を半周以上するぐらいの航海が必要だったのです。
当然ながら北極海は使えません。
パナマ運河がないので南米マゼラン海峡を通るとしても危なくてしょうがない。
スエズ運河がないのでアフリカ最南端の喜望峰経由だと26,800km(地球5/8周以上)。
しかも寒暖の差や季節逆転・再逆転、海賊や風土病と戦いながらの大旅行です。
さらにたどり着いた先には、戦国時代の超リアリスト武将たちが世界最多の鉄砲を構えて待っていました。
この極東の土人にはポルトガルから買った火縄銃を自国生産する能力があり、国内で争ううちに鎖国さえ可能な大軍事国家になっていたのです。
宗教を使って手なづけようともしましたが、超リアリスト武将どもがその意図を察知してすかさず弾圧しました。
人口が少ない北米・南米・ニュージーランド・オーストラリアであれば武器・疫病・権謀でたやすく原住民を駆逐することができました。
しかし中国インドのように人口が多い国を支配することはまだ難しく、産業革命によって大きな差がつくまで植民地化は難しかったようです。
戦国時代明けの日本は人口が多く、火力で圧倒し、かつマキャベリも真っ青の謀略国家でした。
欧州から援軍を送りたいところですが日本は遠すぎます。
ムキになって大軍を送ったら本国が他の列強にやられてしまう可能性があり、全くコストに見合わなかったのです。
そんな幸運も手伝って、日本は欧州の植民地にされることなく独立を保つことができたのです。
[大前提4] 日本は東アジアの関所
地政学には「チョークポイント」という言葉があります。
特に海上交通において通らなければならない要衝のことです。
そして日本列島は中国やロシアに対し、いやがらせのように海上交通を邪魔しています。
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せと弘幸BLOG『日本よ何処へ』
2010年09月22日
【尖閣】日本は最大の国難に直面より
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世界的に重要なチョークポイントであれば、かつてのパナマ運河、スエズ運河、いまのジブラルタルのようにおそらく英米は直接統治に乗り出したでしょう。
しかし幸運なことに日本が持つ
宗谷海峡
津軽海峡
対馬海峡
大隅海峡
宮古海峡
などは、東アジアのローカルなチョークポイントです。
ロシア・中国・韓国・北朝鮮にとっては海に出入りするための道にことごとく関所を設けられているようなものです。
自由に通行できれば良いのですが、妙に好奇心旺盛でときに武闘派なお気楽土人が居座っているためままなりません。
こいつらの数が少なければ何とかなりそうですが、米を栽培して人口稠密の上に魚や野菜を食べて温泉につかるご長寿民族なのでなかなか数が減りません。氷河期ですら暖流と温泉に守られて人がそれなりに居たようです。
アメリカにしてみれば米・豪・日の三角形で太平洋を内海にすることができます。中露を封じ込める意味でも、日本列島や沖縄・台湾を手放すわけには行かないのです。
[大前提5] 水や自然に恵まれる
それら絶妙のポジショニングに加え、日本は水や自然に恵まれています。
高い山は豊かな雨や雪を降らせ、砂漠化や塩害とは無縁です。
豊かな山林が海を潤し、世界三大漁場のひとつを独占しています。
山と川が国土を適度に分断し、地方色の豊かさと健全な競争をもたらしています。
活発な造山活動からは温泉・地熱・農業に必要な養分などの恩恵を与えられます。
台風、洪水、地震、噴火などの災害とひきかえに、人と自然が共存する環境が整っているのです。
こうして見ると、日本はイギリスの島国的有利さと欧州大陸の多様性を兼ね備えた国土だと言えるでしょう。
様々な違いはあっても最後は万世一系の天皇陛下のもとにまとまることもその強さの源です。
日本の弱点を挙げるとしたら、
- 石油などの戦争用エネルギーが少ないこと
- 戦略的縦深性に乏しいこと
で、シーレーン(海の道)を確保しておかないと発展できないことがあります。この点では国内ですべて賄えるアメリカのチートさ(インチキ度合い)にはかないません。
しかしそれ以外は何でも揃っている「地上のプチ楽園」と呼べるでしょう。
(続く)
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