冷戦以来の再ブロック化 (1)行き過ぎたグローバル化の反動
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第91号 冷戦以来の再ブロック化 (1)行き過ぎたグローバル化の反動
不定期発行
Presented by Wild Investors
安間 伸
Shin Amma, CFA
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世界が冷戦以来のブロック化に向かっていることは、すでに「投資ブログ」等で述べました。
米中貿易戦争も、華為(ファーウェイ)副会長逮捕も、中国製通信機器排除もすべて同じコンテクスト上にあります。
その根底には米中の覇権争いがあり、欧州・ロシア・中東諸国はその隙間で独自の動きをしています。
無関係に見えるような出来事が、根底では密接につながっています。
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約50年ぶりの対中政策大転換 (8)経済ブロック化によって増える国家介入
【週末だけのグローバル投資】 2018年12月02日11:40
http://blog.livedoor.jp/contrarian65-wild/archives/51257284.html
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そこで今回は歴史的な流れを整理し、「この先起こること」を主に地政学的な観点から考えてみたいと思います。
「冷戦以来の再ブロック化」
が理解できなければ、戦略を誤って大きなリスクに巻き込まれてしまうでしょう。
流れとしては以下の通りです。
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- 冷戦終了で経済障壁が消滅し、グローバル企業にとって「新大陸」が出現した(1991年)
- 競争がグローバル化し、「国際分業と淘汰」「新興国の急速な発展」「先進国の雇用縮小と格差拡大」が進んだ
- 情報技術の発展がそれに拍車をかけた(1990年代後半から)
- 先進国では中流階級以下の不満が高まったが、マスメディアや自称リベラル団体が弾圧した(2000年あたりから)
- 生存を脅かされた人々が、自分を守ってくれる政治家を応援し始めた(2010年あたりから)
- 中国の「真の意図」に気付いた米国が、『潜在敵国』へと認識を改めた(2018年10月)
- 米国は50年ぶりに対中政策を転換し、経済ブロックを構築しようとしている。
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今回のグローバル化の発端は、ソ連崩壊(1991年)でした。
実のところまだ30年も経っていないのです。
米国(NATO)の西側は、ソ連(ワルシャワ条約機構)の東側との冷戦に勝利。
東側諸国には民主化と資本主義化の波が訪れ、西側への来訪や移民が自由化されました。
これは特にグローバル企業にとって、「新大陸」が出現したのと同じでした。
まだどの資本にも支配されていない巨大な市場や、原材料・人材の調達先が現れたということだからです。
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東側諸国は混乱し、内戦やクーデターが起こりました。
しかし「政治制度は民主化、経済は自由化」へと向かっていました。
その中でロシアの新興財閥(オリガルヒ)のように、経済的に力をつけて政治まで動かす勢力が出て来ました。
西側のグローバル企業は、そのブランド力で旧東側諸国に製品やサービスを売り込みました。
旧東側の国々はハリウッド映画を見て、マクドナルドでコーラを飲むようになりました。
また旧東側の安い地代や人件費に目をつけて、生産活動を行うようになりました。
グローバル企業にとっては、「新市場の開拓」「より安い生産地の確保」によって、サプライチェーンを強化することができたのです。
その結果、グローバル企業の利益は大きく伸びました。
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経済国境の消滅は、
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- 国際分業と淘汰
- 新興国の急速な発展
- 先進国の雇用縮小と格差拡大・階級の固定化と対立
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を招きました。
たとえば旧西側で作ると1000円かかるものが、旧東側で作ると100円だったりしたのです。
するとグローバル企業は旧西側の拠点を閉鎖し、旧東側へと移します。
人件費や地代が安い新興国で作り、それらが高い先進国で売れば、利益は何倍にもなります。
その「裁定機会」を最大限に生かすことができたのは、グローバル企業だったのです。
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その動きに拍車をかけたのが1990年代後半のIT革命です。
情報技術の発展は、地域差や時間差を埋める働きをしました。
日本人向けのサポートセンターを大連に置けば、コストを抑えることができます。
米国時間にインドに向けてコンピュータプログラムを発注しておけば、次の朝には受け取ることができます。
そういった「国際分業」を積極的に進めた企業は大きく利益を伸ばし、そうでない企業は敗退しました。
強い国際競争によって淘汰圧がかかり、企業はM&A(合併・買収)によって集約されて行きました。
それまでは、国際競争が激しい業界であっても各国で5位ぐらいのシェアを持つ企業ぐらいまで生きて行けました。
しかしそれ以降、世界で5位以内であって生き残れるかどうか怪しくなってきたのです。
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先進国の資金と最新技術が導入されたことで、新興国は急速にキャッチアップを始めました。
それまで先進国民に支払われていた賃金や地代が新興国民に渡り、消費を押し上げました。
その中でも巨大な人口と国土を抱えるブラジル・ロシア・インド・中国に期待が集まり、BRICs(ブリックス)と名付けられました(2001年)。
それらの国でオリンピックやワールドカップが立て続けに行われました。
サブプライムショック(2007-09年)で資源価格が崩落するまで、BRICsはいずれG7を超えるだろうと予測する人々もいました。
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「人の移動」もまた、大きなインパクトを与えました。
ソ連崩壊後の混乱で、旧東側諸国から西側諸国に移住した人々は多いです。
戦争が減った代わりに、部族闘争・宗教紛争・テロなどが増えました。
たとえ戦乱がなくとも、より豊かで自由な環境を求めて人々は先進国へと移動しました。
地方の若者が都市部に集まるのと同じ現象が、世界規模で起こったのです。
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彼らの多くは単純労働者として先進国で働き始めました。
祖国では貴族だったり資産家であった人々も、地位や財産を失ってその動きに加わりました。
こうして先進国では単純労働者の供給が増え、彼らの給料は相対的に低く抑えられました。
割を食ったのは、もともとそこで働いていた先進国民です。
1990年代後半のドットコムバブル期でさえ、単純労働の賃金がなかなか上昇しなかったのです。
しかしおかげで賃金インフレ圧力が顕在化しにくくなり、景気拡大と株価上昇が長期化しました。
この現象は「ジョブレスリカバリー(雇用なき景気拡大)」と呼ばれました。
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結局、冷戦終了による経済国境消滅で利益を得たのはグローバル企業でした。
それは「先進国の雇用縮小と格差拡大」を招きました。
グローバル企業はサプライチェーンを世界に拡大し、未曽有の収益を上げました。
またグローバルIT企業も、独り勝ちしやすい構造のため世界市場で独占的な利益を得ました(マイクロソフト・アマゾン・グーグルなど)。
そのほとんどは先進国企業でしたが、そのうち新興国からも先進国企業を「喰って」成長する企業が出現しました。
その恩恵を受けた人々は先進国側にも新興国側にもいて、経営幹部や投資家はそこから大きな利益を得ることができました。
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しかし人数としては、そうでない人々の方がずっと多数派でした。
IT技術によって減った雇用を、他国にいる労働者や自国に入ってきた移民と奪い合うことになったからです。
グローバル企業はますます豊かになって、国や地域への発言力を強めました。
逆に国や地方は疲弊した人々を救うために借金を重ね、硬直化して行きました。
「市場 vs 国家」の力関係は大きく市場側に振れ、まるで国家が消滅するかのような論調も出始めました。
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先進国の中流階級や労働者階級にとって、グローバル化は悪夢でした。
雇用は不安定化し、直接・間接に賃金を削られました。
移民・難民の流入で治安が悪化し、社会保障の負担が増しました。
欧州では、住み着いた国をイスラム化すると公言する政党も出現しています。
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各国で「格差拡大」「階級の固定化」「階級対立」が激化しました。
新興国はもともとそのような国が多いため、経済成長が続いている間は不満を覆い隠すことができるのかもしれません。
しかし先進国、特に中流以下の人々にとって不満は高まるばかりでした。
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時間が経つにつれ、先進国民の不満は抑え切れないまでに膨らんできました。
ネットの発達によって、自称リベラル派やマスメディアの世論操作が効かなくなってきたこともその理由です。
その結果が
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- 第二次安倍政権の誕生(2012年12月)であり
- 国民投票による英国のEU離脱(2016年6月BREXIT )であり、
- トランプ大統領の誕生(2016年11月)であり、
- マリーヌ・ル・ペン氏のフランス大統領選挙決選投票進出(2017年5月)であり、
- それ以降も各国で進んでいる右派政党躍進
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でした。
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そして2018年10月、ペンス米副大統領演説によって米国は
中国を『パートナー』から『潜在敵国』へ
とクラスチェンジしました。
こうなると、もはや再ブロック化への流れは止められません。
【参考】
対中政策50年ぶりの大転換 (1)全面対決を打ち出した米トランプ政権
http://wildinvestors.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/50-1-43f8.html
対中政策50年ぶりの大転換 (2)ペンス演説は歴史的ターニングポイント
http://wildinvestors.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/50-2-b377.html
(続く)
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