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ワイルドインベスターズ会員向けメールより 2008/09/30 (火) 18:56
新興国クラッシュ、新ブレイディ債、超クラウディングアウト
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[加速する金融収縮と処理]
私は最近、夜中までNY市場を見ています。
短期トレードするわけでもないし、朝になれば結果はわかるはずなのですが、
この仕事を始めて以来の大イベントをこの目で見ようと思っているんです。
まるでワールドカップを生で見ようと、夜更かししているサッカー少年のようです。
あまり生産的だとは思いませんが、何か感じることもありますんで許してください。
さて、昨夜はアメリカ下院で金融安定化法案が否決され、各国の市場は軒並み大幅安となりました。
SP500指数は1106.42(-106.59,-8.79%)、ダウ工業株30種平均は10365.45(-777.68,-6.98%)。
ブラジルも10%近く下げてます。
それに先立ちまして、欧州市場も大きく下げていました。
掲示板等では「次は欧州の金融株」とさんざん指摘してきたわけですが、
実際に起こってみると動きは速かったです。
ベネルクス3国が1兆7千億円相当を投入してフォルティス(FORB BB)を救済したとか、
英ブラッドフォード・アンド・ピングレー(BB/)も国有化されたとか、
ドイツ不動産2位のヒポ・レアルエステート(HRX GY)に5兆3千億円相当を投入するとか、
ここぞとばかりに処理を加速させています。
しかし、なんだか感覚が麻痺してきますね。
ワシントンミューチュアル(WM)が破綻しただとか、
ワコビア(WB)がシティに救済合併されるだとか聞いても、
「ああ、そう」
みたいな感じで特別の感慨もありません。
通常であれば数年ぐらいかけるぐらいの変化を9月に一気にやってしまったようですが、
こういった流れは「恐慌が起こりやすい9-11月」のあいだ続くであろうと予測しています。
[米納税者は生贄を望むか?]
それにしても、まさか米下院がこの法案を否決するとは思っていませんでした。
バーナンキやポールソン、そしてもしかしたらブッシュ大統領も(笑)この法案の重要性は理解しているのでしょう。
特にバーナンキは「ハルマゲドン」という言葉を使って、半ば脅しのように必要性を訴えたそうです。
しかしどうも、納税者の立場としては
「さんざんオイシイ思いをした連中を、どうして税金で救わねばならんのだ?」
という感情的な反発が根強いようです。
確かに、税金を注入される金融機関がどさくさに儲けることがないよう、
役員の給料カットや既存株主へのペナルティなどの整備は必要でしょう。
やみくもに脅したり、成立を急ぎすぎるのは逆効果です。
何よりも救済されるのは金融システムであり、
ひいては国民自身なのだということを理解してもらう必要があります。
あたかも米国民は、ベアスターンズやリーマンに続く生贄を求めているようです。
誰の責任なのかを明確にして、生贄を差し出せという気持ちはわかります。
しかしその生贄が自分自身になるかもしれない可能性について、まだ理解できていないのかもしれません。
それは公的資金を出し渋ったばかりに、
激烈な金融収縮・倒産・失業の嵐でなぎ倒された日本の姿を思い出します。
[新興国はすでにクラッシュ?]
しかしそうは言っても、米国の金融システム自体についてはあまり心配していません。
なぜならこの法案が通らないと米国経済がガタガタになるので、
多少の豪腕を振るっても通してしまうだろうからです。
米銀の大手は、買いのチャンスではないかとまで考えています。
しかし、問題はまだ終わっていません。
たとえば欧州の金融・不動産部門は要注意です。
日本だって、地銀などをはじめ弱っているセクターが散見されます。
そして何度も言ってますが、新興国は資金流出と需要の消失に直面し、
かなり厳しい状態になるでしょう。
実はもう、新興国クラッシュと呼んでも良いような株価の動きと、
調達金利の上昇が見られています。
いくら政府が救済するといっても、世の中すべての投資商品を救うわけには行きません。
必然的に、ヘッジファンドや新興国は「自己責任」ということになるでしょう
借り入れに頼ってそれらに投資をしていた人々は、かなり厳しいことになります。
今の時点では各国の被害状況を以下のように想定しています。
もし処理が遅れたり、失敗するようなことがあれば、
それぞれの状況がひとつづつランクアップする可能性があります。
事態はなお、余談を許さないということです。
[レベルA 風邪で寝込む] 米国・日
[レベルB 入院・療養] 英欧など先進国
[レベルC 重症] 有力新興国
[レベルD 棺桶入り] 泡沫新興国
[新ブレイディ債(仮)]
では、
「じゃあ各国で危ない金融機関を処理して、債務保証しましょうね!」
とやれば、危機は収まるのでしょうか?
たとえすべての国がそうやったとしても、今度は別の問題を引き起こします。
それは「国ごとの信用力が、モロに調達金利に響いてしまう」ということです。
たとえばアメリカ政府に保護された米銀、日本政府に保証された邦銀、
あるいは欧州先進国に国家補償された銀行…。
これらはよほど問題がない限り、低利で調達できるでしょう。
逆に言うとお互いが支障なく資金を貸し借りできるよう、
危ない金融機関を取り除いてしまうことが、金融危機脱却の第一歩です。
このことを意識してか、すでにFRBが9カ国との間に米ドルスワップ協定を結んでいます。
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ロイター日本語版より
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33992020080929
(前略)
通貨スワップ協定の各中銀別の最大供給額は、ECBが2400億ドル、カナダ中銀が300億ドル、英中銀が800億ドル、日銀が1200億ドル、デンマーク中銀が150億ドル、ノルウェー中銀が150億ドル、オーストラリア中銀が300億ドル、スウェーデン中銀が300億ドル、スイス中銀が600億ドル。
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これは言うなれば、ドル調達の先進国メジャーリーグです。
「この中だけは、心配なく貸し借りしようぜ」
という仮想ブロック経済ですね。
ロシアや中国などは、ドル覇権を崩そうとしている節があるので、
当然混ぜてもらえないでしょう。
そういった政治的な意図を除外しても、たとえばブラジル・インドあたりも難しいでしょうね。
するとどうなるか?
ジンバブエはジンバブエの銀行債務を保証します。
キューバはキューバの銀行債務を保証します。
北朝鮮は北朝鮮の銀行債務を保証します。
(以下略)
当たり前ですが、各国でこのような努力をしても調達できない国が出てきます。
国自体に信用がないので、保証に意味がないんです。
すると信用力の弱い国から「飛ぶ」ことになり、
貿易していた先進国の企業がとばっちりを受けて、下手すれば破綻の危機です。
そこで、「助けてくださいよお」と自国政府に泣きつくことになります。
先進国の政府にしてみれば、有力企業が破綻するのは損です。
また、他国を支配下に置いておけばなにかと有利だという計算も働きます。
そこでこんなことを言い出すかもしれません。
「しょうがねえなあ。払えないって言うんだから、借金を少し負けてやろうぜ。
その代わり現地の政府債務ってことにしてさ。
俺たちも少しはカネを出すから」
そう、これは80年代の中南米危機のときに米財務長官だったブレイディ氏の発案で発行された
「ブレイディ債」のようなものです。
もちろん、先進国に余裕のない今はこんな話は出ていません。
しかし新興国がクラッシュして世界経済に大きなダメージを与えるようになれば、
こういった話は出てくるでしょう。
与太話で終わるかもしれませんが、ありうる話だと考えています。
[超クラウディングアウト]
そうなればようやく、不況も終わりですかねえ…。
…と思ったのですが、すんなりとは終わらないでしょう。
次にはけっこう強烈なクラウディングアウトが来ると考えています。
クラウディングアウトとは、政府債務が増えすぎてカネを集めてしまい、
民間の投資が減ってしまうことを言います。
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金融用語辞典より
クラウディング・アウトとは
http://www.findai.com/yogow/w00422.htm
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世界中が政府債務になれば、金利は上昇するでしょう。
たとえば米国金利が10%になってしまえば、
リスクを取って投資やビジネスをやる人は減ります。
その結果、民間の経済活動が鈍ってしまうことは充分に考えられます。
まあこれも、確率は半々ですけどね。
期待インフレをうまく操作することができれば、無事にソフトランディングできるかもしれませんし。
しかしまずは最悪の状況を想定しておいて、そこから楽観的に行動したほうが良い結果が得られるかもしれません。
いろいろ書きすぎてちょっとしたレポート並みになりましたが、
次のDeepInside10月号には妄想エンジン全開の未来予想図を用意しています。
ご期待ください!
(このメールは公共性が高いので、時間をおいてブログやメルマガで公開するかもしれません)
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