IT企業が買収を続ける理由(2)
そのようなメカニズムを理解していただいたところで、さらにディープな領域に突っ込みましょう(笑)。
割安に放置された会社の経営者には、買収されてクビになる恐怖があります。
一方で、超割高に評価された会社の経営者には、そこから墜落する恐怖があります。
どっちも怖いのですが、後者は投資家の期待に報いるか、ソフトランディングさせることができれば助かります。だからほとんどの会社ではIR活動に力を入れ、株価が不当に安い状態にならないように気を使うわけです。
なんでこんなことになるかというと、株価は一種の通貨なので、その価値が高くなったときは他の割安なものと交換するチャンスだからです。あなただって、円高のときにさんざん外国通貨を買ったり、ゴールド買ったりしたでしょう。それと同じです。
そうであれば、ずる賢い経営者はこう考えます。
「ウソでも何でもいいから投資家に株を高く評価させれば、あとはやりたい放題で買収できるじゃないか。実体があとで追いつくようにすればいいし、結果がうまく行けば投資家を騙したことにはならない」
こうして、粉飾決算が始まるわけです。
カラクリ3の第五章でも述べましたが、投資家の幻想によって株価が高騰するのであれば、それを使ってまともな会社を買収すればよいのです。まるで巧妙なニセ札を作って、こっそり本物のお札と交換してしまうようなトリックです。
もともとビジネスの半分はハッタリで出来ているようなもんですから、経営者が大き目の風呂敷を拡げたところで怒るようなことでもありません。しかし中には最初から投資家のカネをふんだくるつもりで粉飾・虚言を駆使する経営者もいます。投資家は知性をフル活用して、財産を守らねばならないのです。
一方、粉飾をするでもなく偶然にそういったチャンスを手にした経営者は、何とかその期待を現実にしようと考えます。
「よくわからんけどラッキー。だけど期待がはげると反動が怖いから、割安な会社の株と交換しておこうっと」
かわいそうなのは買収されるほうの会社です。単に自社株が割安だったからという理由で、実体の薄い霞のような相手の株と交換させられてしまうのです。全然関係のない会社であれば経営者は留まることもできるでしょうが、同業者であれば確実に自分のクビが飛びます。
そのような悲劇はよくあるのですが、国内の企業を例にするとブッ殺されそうなのでここでは
「超ド高値のAOL株と交換させられた
タイムワーナー状態」
と命名することにします(笑)。
では、こういった「超割高企業の株式交換による買収」によって、トクをする人と損をする人を整理してみましょう。
1. 買収側の超割高企業の株主・・・・・・買った価格による
割高になる前から保有していたのであれば、経営者のその後の働きによって今の株価が正当化されることもあるでしょう。しかし、いいかげん高くなってから買ったとしたら、良くて現状維持、悪くて暴落です。
2. 買収される側の株主・・・・・・短期的にはトク。長期は損。
買収されることになれば普通はプレミアムがつくので、短期的に株価は上がるはずです。ただしその対価が現金ではなく超割高企業の株だとしたら、いつまでも安心していられません。霞が消えてなくなったとき、その企業は自らの価値をタダ同然で売り渡したことになります。
3. 買収側の超割高企業の経営者・・・・・・望まぬリスクを抱えてしまったが、望みはある
前述のように、M&Aによって期待と現実をすばやくマッチングさせ、ソフトランディングすることが可能です。しかしそれに失敗すると、勝手な投資家たちからの非難を一身に浴びることになります。
4. 買収される側の経営者・・・・・・良いことありまっしぇん
前述のように実体の薄い霞のような相手の株と交換させられ、その尻拭いが大変です。全然関係のない会社であれば経営者は留まることもできるでしょうが、同業者であれば確実に自分のクビが飛びます。「投資家に自社の価値を理解させる努力を怠った」という落ち度はあるかもしれませんが、不特定多数の投資家に完全な理解を求めることがビジネスの本筋でしょうか? 個人的にはこういう会社の株をあらかじめしこたま買って、応援したいと思いますがね。それが投資のプロとしての責務だと思いますし。
いずれにしても投資家としては「割高な株を買うな」という話です。逆に「良い株を割安なまま放置させるな」ということも言えますかね。
大型買収をするからとか、株式分割をするからという理由で株を買っていれば良いカモになります。特に新株発行を伴う買収は、経営者自身が自社株の割高さを自覚しているひとつの証拠です。
テレビ局の株が欲しいんだったら、
IT企業を通さずに自分で直接買えよ
ということですな(笑)。
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