日本人の「戦う民意」 - 2012衆議院選挙結果より
2012年12月の衆議院選挙の結果が出ました。
予想通り小選挙区は自民党の圧勝。そして比例区は維新の会が躍進して、民主党を上回りました。ただ維新の会は東京で苦戦し、トータルでは民主党が第二党の座をキープしました。
詳しい議席数はこちらで
2012年 2009年
自民 294 ← 118
民主 57
← 240
維新 54
← 11
公明 31 ← 21
みんな 18 ← 8
未来 9 ← 61
共産 8 ← 9
社民 2 ← 5
大地 1 ← 3
国民 1 ← 2
日本 0 ← 1
無所属 5 ← 10
今回、私が驚いた点が2つあります。
ひとつは投票率が下がったこと。
この3年間に多くの人命と国益が失われました。しかし「その代わり骨身に沁みて学んだことも多かっただろう」と思っていた私にとって、これは軽いショックでした。
民主党政権の間に、多くの出来事がありました。
- 3.11東日本大震災。福島原発事故。
- 宮崎口蹄疫
- 円高自虐不況。日本人の倒産と失業は「自己責任」として、海外には巨額支援。
- 議論すらしないと言っていた消費税増税を「不退転の覚悟」で決定。
- 普天間問題がこじれ、米国との間が疎遠に
- 中国人船長の海保巡視艇を無罪で釈放。沖縄地検のせいにして証拠ビデオ隠し。
- 「民主党は領土を守る気がない」と見たロシアもメドベージェフが北方領土上陸。
- 韓国の李明博大統領も竹島上陸。天皇陛下に謝罪を求める。野田首相からの親書を突き返す。
- 中国は尖閣領有権の主張強化。監視船と航空機で恒常的に侵入。
- 北朝鮮がロケット発射。不審船が日本海沿岸に多数出現。
挙げてゆくとキリがありません。しかしこれらすべてに無関係・無関心で、何の感情も持たなかった人は少ないはずです。
これまで政治家に対して怒りの声は聞いたことがありましたが、恨みや憎しみの声を聞くようになったのは初めてのことでした。また日本人がマスメディアに対して、怒りのデモをやったもの初めてのことでした。
どう考えても内外の情勢は3年前よりも緊迫しています。
そして今回の選挙。民主党政権にイエスであれ、ノーであれ、ほとんどの人が何らかの意思表示をするはずだと思っていました。
それなのに選挙に行かない人が増えたことは驚きです。
むむー、 「愛」の反対は「憎しみ」ではなく「無関心」ってかあ???
「誰がやっても同じ」という宣伝を真に受けた?
そんなこと言う人は結果が気に入らないと「それは間違っている」って後から文句を言いますよ。「誰がやっても同じ」なら、誰が選ばれても不満はないはずなんですがね。
彼らはあなたの考えを誘導しようとしているんです。思った方向に動いてくれないときは、そう言って考えたり投票すること自体を邪魔するんですよね。
あるいは「自分は当事者ではない」と思っている?
自国政府に統治能力がないとどうなるか、経済困窮と軍事侵略の恐怖を味わったでしょうが。それとも自分に被害はなかったとでも思っているのかな。
この期に及んでまだ誰かがこの国を自分が望むように動かしてくれることを期待しているのだとしたら、他力本願もかなり重症かもしれません。
今回の投票率の低下をあえて好意的に解釈するなら、
「これまでマスコミの言うとおりに投票してきたけど、なんかおかしな感じがする。自分の周りの意見と、マスコミの意見は全く違う。でも何が良いかはわからないので、今回は棄権する」
というものです。
彼らは「民主がダメなら次はXX」という誘導には乗らなかった。しかし「ダメならまた戻せばいい」と戻すこともしなかった。そして自分では判断できないので棄権したと。
普段から政治経済を見ている人は直前になって迷うようなことはなかったと思いますが、マスメディアの情報を頼りに決めている人は「誘導先」が多すぎて判断できなかったかったかもしれません。
そしてもうひとつ驚いたのは、未来の党が惨敗したこと。
私はあまりテレビを見ないので強くは言えないのですが、未来の党は「脱原発」を旗印に理想派左翼やマスメディアから強烈にプッシュされていたような感じがしていました。少なくとも維新と第三極を争う存在として、大きく取り上げられていたと思っていました。
しかし蓋をあけてみたら、現有61議席が9議席に激減です。「小選挙区制の振幅」がいかに大きいといっても、メディアの支援を受けてこの結果ではひどい惨敗としか言えません。民主党以上にボロボロになったと言って良いでしょう。
私はこれを、マスコミが浮動票を誘導する「秘技:争点ずらし」が効かなくなったからではないかと考えています。
今回の選挙は過去3年余りの民主党政治の総決算。そして緊迫する東アジアの安全保障が最大の争点だったと私は思っています。特に中国に対して周辺国と連携してどのような対策を取るのかが重要で、維新が躍進したひとつの要因と考えます。
しかし日本のマスコミは反日反米が多いので、そんなことをおおっぴらに議論されては困ります。そこで「反原発」「TPP」など食いつきが良さそうなところを「争点」として設定し、選挙結果を誘導しようとするのです。
これは過去何度も行われており、それなりに有効な戦略でした。
普段政治に関心のない人たちも、選挙が近づくと投票先を探し始めます。そこでマスコミがひょいと争点を提示してやると、「そうか!今回は反原発が争点なんだ」と思って投票します。自分に都合の良い判断基準を与えることで、投票先を実質的に誘導することができるのです。
「秘技:争点ずらし」はこれまでの業績や根源的な問題から目をそらし、浮動票を誘導するためだけの一発ネタです。だから話題性と訴求力があればそれで構いません。
普段から政治に関心があって調べようとする人は、最初から「争点ずらし」のターゲットではありません。知識にどんな差があっても一票は一票なので、誘導しやすい人たちからごっそりいただくわけです。
選挙が終われば浮動票は政治への関心を失います。そして用意された「争点」も報道されなくなり、忘れられます。しかしそんなことは誰も気にしません。あれほど騒がれた年金問題がどうなったかとか、ミスター年金がいま何してるなんて聞いたことないし、気にしたこともないでしょう?
さて今回、小沢一郎さんが嘉田さんと組んだとき、「ああ、これはいつもの手口でメディアが押してくるな」と感じました。
しかし票はまったく未来の党へ流れませんでした。
「理想派社会主義者」が、社民党と票を分け合って共倒れになったからかもしれません。
第三極の準備が整わないうちに解散に踏み切った野田佳彦首相の作戦勝ちかもしれません。
しかし一番大きな理由は、選挙に行く人たちが全体的に賢くなったからではないかと思います。政治家の言動や哲学がネットに蓄積され、たとえ無党派や浮動票であってもマスコミの誘導に乗りにくくなったのではないでしょうか。
小沢さんは百戦錬磨の強者ですが、習近平氏(当時ナンバー6)をゴリ押しして天皇陛下に会わせたことはネットに記録されています。また六百人以上の訪中団を引き連れて北京詣でをし、「私は人民解放軍の野戦司令官」と発言したことも有名です。
調べたらすぐソースが出てくるので、どんな人物なのか若い人たちでもすぐ見当がつきます。「中国・韓国べったり」という印象を消すことは困難なので、選挙直前になって反原発を主張したところで「また日本の産業を潰して技術を流出させようとしてるよ」としか思われないのです。
この3年で、日本の選挙民はかなり賢くなったと思います。
今回は小選挙区は自民、比例は維新にと分けたり、一票の価値を最大限に高める行動が目立ちました。
思考停止に陥って棄権した人も増えましたが、それ以外の人はルールや特徴を理解して投票したと思います。投票行動においても二極化が見られるのは興味深いことです。
さて、選挙の結果いよいよ安倍晋三さんが復活します。
今の安倍さんは「得意科目」の安全保障に加え、「国土強靭化200兆円+インフレターゲット」という対デフレ経済政策を自分の口ではっきり述べています。これは大きな進歩と言えるでしょう。
周辺国シンパの執拗な攻撃に耐え、総裁選の不利を覆し、ボロボロにされた人間がさらに強くなって這い上がって来るとはなんと素晴らしいことか!
「小泉の後継者」としてしか見られていなかったあの頃とは明らかに違います
もちろん前途は多難です。
安倍さんの対外政策は公明党と関係がぎくしゃくしそうなものが多いです。比較的早いうちに公明党との連立を再考したり、維新との連携を模索するタイミングが来るでしょう。
また自民も一枚岩ではないので、選挙が終わったらマスコミや他党と結託して「後ろから撃つ」やつが必ず出てきます。
しかし私は「今回の安倍政権は民意を背景に長期化する」と予想しています。
なぜなら政治に興味を持ち、根源的な問題を把握して、甘言に騙されることなく現実に対処しようとしている日本人が増えているからです。
今回の選挙を待ち望み、自分の強い意志で投票した人々も多かったことでしょう。これはマスメディアが言う「ふわっとした民意」ではなく、生存本能に根差した「戦う民意」です。
理想論や話し合いでは解決できない問題に直面した今、我々はそれにふさわしいリーダーを首の皮一枚で甦らせました。
「日米の連携強化」と「強い日本の復活」は、アジアの安定と発展に寄与するでしょう。
周辺国の挑発と軍事的冒険に、歯止めがかかるでしょう。
脱デフレ政策で日本企業も復活のきっかけをつかむでしょう。
それは少しだけ賢くなった「行動する日本人」への、何よりのご褒美となるはずです。
(終)
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